2018年11月16日
フランス人の「朝・昼・夕食」が日本とここまで違う理由
フランス人の食事は意外と質素
我が国の食事は一汁三菜が基本とされ、ご飯、汁物のほか3種類も作ることがよいとされる傾向にある。共働き世帯が専業主婦世帯を上回っている現在、家事の負担は妻の肩にのしかかることがほとんどだ。
一方、フランスでの食事は、大きなお皿にトリュフやこってりしたソースがかかった料理が美しく盛られているイメージだ。しかし、イメージ通りの食事を毎日食べている家庭はまずない。フランス人の食生活は意外に質素である。
日本でもフランスでも食事作りは女性の役割となっていることが多いが、フランス女性はなぜ仕事と食事作りの両立が上手なのかを考えていきたい。
朝から卵、ベーコン、ソーセージなどは食べない
2017年の労働力調査によると、男性雇用者世帯に占める共働き世帯の割合は約63%。とくに日本の場合、妻が家事や育児をこなすという「家庭での労働」に時間を費やされる傾向にある。国立社会保障・人口問題研究所の全国家庭動向調査(2013年)によると妻と夫が行う家事の総量を100とすると、その85.1%が妻の負担となっているのが現状だ。
妻にとって大きな悩みは食事作りだ。毎日同じメニューを出すわけにもいかないし、子どもが中学生になるとお弁当が始まる。夫の帰りは遅いし、1日に何回も食事を作り、後片付けが途切れることはない。仕事と家事の両立に悩んだ挙句、退職する人も多いという。
だからといって専業主婦では家計が立ち行かず、結局はパートに出る。給料は下がった挙句、家事の負担が増えてしまいがちだ。結局夫はフルタイムで働いていない妻に、家庭での労働を押し付ける形になることが多い。日本の妻たちは疲労している。
バラエティ豊かな食事を作るのが、母や妻の務めのように言われることもあるが、女性の就業率約9割のフランスの食事はとてもシンプル。
朝食は、フランスパンとコーヒーが基本だ。
コーヒーにミルクを加えれば、カフェオレが出来上がる。アメリカやイギリスのように、朝から卵にベーコン、ソーセージなどを食べることはない。
そもそも、子どものときから朝はパンとドリンク、あってもヨーグルトや果物だけであり、とてもではないが、朝から重い食事を食べられないのが実情だ。
「1ユーロのバゲット」がフランス人の主食
フランス人の朝食というと、焼き立てのクロワッサンが真っ先に浮かぶのではないだろうか。だが、クロワッサンは少し贅沢だ。
クロワッサンの値段は約1.2ユーロ。1ユーロ130円の場合、1つ156円もかかる。クロワッサンを家族の人数分以上買う必要があり、どうしても割高になってしまう。
普段の食事は、朝、昼、晩とバゲットを食べる。バゲットはフランス人の主食であり、値段も1ユーロと安い。クロワッサンに比べて経済的だといえるだろう。
バゲットは「棒」という意味で、70~80㎝のフランスパンを指す言葉だ。日本のバゲットよりはるかに長いため、1本で家族分のパンを賄うことができる。バゲットを切り分けて、バター、ジャム、はちみつなどをつけると立派な朝ごはんの出来上がりだ。バゲットをちぎって、カフェオレやショコラ(ココア)に浸して食べるのがフランス流である。
バゲットのデメリットは、時間が経つと硬くなってしまうこと。そのため、食事のつどパン屋まで買いに行かなければならない。共働き家庭にとって、朝からパン屋まで買い物に出かける余裕はないだろう。そんなときには、スーパーで売っているスライスした袋詰めのパンやシリアルを食べることも多くなってきている。
食後の洗い物はコーヒーカップだけ
家庭内では、子どもが少し大きくなると家事の役割が与えられる。
朝起きて、テーブルにお皿とナイフを並べる。バターやジャムを冷蔵庫から出す。戸棚からパンを出す。夫はお湯を沸かす。
家庭によってはお皿を使わず、紙ナプキンや布ナプキンの上にバゲットを乗せいただくこともある。食後の洗い物はコーヒーカップだけ。食洗機にコーヒーカップを入れて朝食が終了する。
ここだけの話だが、布ナプキンは数日間にわたって同じものを使用するため、洗濯物が出るわけではないことをお伝えしておこう。
同じ柄の布ナプキンでも、たたみ方や結び方で誰のナプキンわかるように工夫をしているのだ。
しかし、週末を迎えると、事情は変わってくる。ゆっくり起きてからパン屋へクロワッサンやパン・オ・ショコラなどの甘い菓子パン買いにいくのだ。そして普段とは違う朝食を楽しむ。
いずれにしても朝食は火を使った料理をすることはない。鍋もお皿も汚れない。日本のように母親だけが早起きをして、朝食の支度や後片付けに追われることは考えられないのである。
お昼も軽めだが、学校の給食はフルコースをいただく
共働きが多いため、幼稚園にも学校にも給食がある。親はお弁当を用意する必要はないことがうれしい。給食といえども、前菜、主菜(メイン)、副菜(付け合せ)、デザート、パンのフルコースだ。
バラエティ豊かなフランス料理が提供されている。野菜や肉・魚はたんぱく質などの栄養をきちんと取れるので親としてはありがたい。給食費は1食1ユーロから7ユーロ程度、家庭の収入に応じて負担するしくみとなっている。
まれに給食を作ってくれる人がストライキで、お弁当を用意するときもある。しかし、心配はいらない。フランスのお弁当はパンにハムかチーズを挟んでおしまい。サンドイッチにリンゴを1つ持たせれば完璧だ。どちらかというと、パンとチーズを別々に持たせて、子どもが自分で挟んで食べる家庭の方が圧倒的に多数である。
大人たちはレストランやカフェで日替わり定食を頼んだり、軽く済ませたいならサンドイッチを買って歩きながら、天気がよいなら公園で食べる人も多い。
夕食でもほとんど料理はしない
朝食と昼食がここまでシンプルだとグルメで名高いフランスでは、さぞかし豪華な夕食をとるのではと思われるかもしれない。期待を裏切るようで申し訳ないが、平日の夕食も質素である。
たとえば野菜スープとチーズ、キッシュとサラダ、パスタやピザで簡単にすませることが多い。肉の加工食品も豊富でパテやハムなどのテイクアウトの食材もフル活用する。
野菜スープは、冷蔵庫にある野菜を茹でて、ハンドミキサーで混ぜるだけだ。基本はジャガイモ、ニンジン、玉ねぎ、長ネギだが何でもよい。あればローリエやパセリも入れる。味付けは塩のみ。あっという間にできるのがよいところだろう。
少し調理が必要になるが、牛肉や鳥肉などを塩こしょうして焼き、温野菜や生野菜を添える。結局、フランス人の普段の食事は、時間のかかる料理をすることはなく、品数も少ない。「妻が食事作りに忙殺されることはない」というらやましい状況なのだ。
ただし、週末にはご馳走をたらふく食べる
普段の質素な食事を補うように週末になると、豪華の食事をいただく。前菜からデザートまでのフルコースを作り、ワインを飲みながら時間を掛けて食べるのだ。昼食が終わったらもう夕方の5時過ぎていることも珍しくはない。
週末は遅めの朝食をとってから、家族そろってマルシェ(市場)へ買い物に出かける。季節の新鮮な野菜や果物などの食材、ジビエ(いのしし、鹿など野生鳥獣の食肉)は秋にしか食べられない。
フランス人はなによりも季節感を大切にする。家族だけで食べることもあれば、親戚、友人を招待してのホームパーティも頻繁に開いて、おしゃべりを楽しむ。
もちろん、食事の準備は家族総出で行うことになる。前菜を妻が担当したら、メインは夫が肉を焼いたり、お皿を並べるのは子どもたちの仕事だ。普段は質素な食事だけど、特別な時にご馳走を作っていただく、というメリハリがある。
日本だと「週末は食事作りから解放されたい」と外食をしがちだが、フランスでは外食は一般的ではない。その理由のひとつは外食が高いことが挙げられる。マクドナルドのビッグマックは日本で380円だが4.2ユーロ(546円)だ。
スターバックスなどのファーストフードはもちろん、ランチでも3000円以上、ディナーだと飲み物を含めて最低でも8000円程度。食材を買って自分たちで作る分には食費は安くあがるが、外食はビックリするほど高くなる。
フランス人は基本的にケチなので、ムダなお金は使わない。節約した分は誕生日などの記念日に外食をしたり、夏のバカンスに備えて貯蓄を行う。
しかし、日本の朝ごはんをバゲットとカフェオレにすると高くつく。さすがにご飯とふりかけで食べるわけにはいかないが、夫に家事をやるように頼むのではなく、家事自体を減らしていく工夫が必要なのかもしれない。
少し前に土井善晴さんの『一汁一菜でよいという提案』を読んだ。一汁は具だくさん味噌汁。一菜は漬物を指している。フランス人の食事感に近いものを感じた。自分の時間、家族の時間を作るという意味で、フランス人を見習っていきたい。
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